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取締役退任登記手続請求

会社の取締役を退任(辞任・解任・任期満了等)したにもかかわらず、取締役の退任登記がなされず、会社の取締役として公示されたままの状態になっている者は、会社に対して、自らが被告会社の取締役を退任した旨の変更登記手続を請求することができます。

商業登記請求権

私法上の商業登記請求権が認められるか否かにつき、会社の登記義務は国家に対する公法上の義務であって登記を求める私法上の権利が発生す余地はないとする否定説もありましたが、現在では、学説・裁判例とも、私法上の商業登記請求権を認めています。

取締役の員数の問題

取締役の員数を欠くに至った場合

株式会社の取締役が任期満了または辞任によって退任したことにより、法律または定款に定める取締役の員数を欠くに至った場合、退任した取締役は、新しく選任された取締役が就任するまで取締役としての権利義務を有します(会社法346条1項)。そして、この場合、未だ会社法915条1項に定める登記事項の変更を生じていないものと解されますから、裁判所において退任登記手続請求の勝訴判決を得て登記申請をしても却下され、新たに取締役が就任するまで退任登記をすることはできません。

最高裁昭和43年12月24日判決・民集22巻13号3334頁

「株式会社の取締役または監査役の辞任は登記事項の変更にあたり、会社はその登記をしなければならないことはいうまでもない。しかし、~法律または定款に定めた取締役または監査役の員数を欠くに至った場合においては、任期満了または辞任によって退任した取締役または監査役は、新たに選任された取締役または監査役の就職するまでなお取締役または監査役の権利義務を有するのであるから、このような者については、退任による変更登記をしたままにしておくことは取引の安全の見地からみて適当なことではなく、退任者がなお取締役または監査役の権利義務を有することを登記公示することが必要であると解せられる。しかるに、法律においては、この特別な場合に関する登記公示について明文の規定を欠いているので、このような場合には、取締役または監査役の権利義務を有する退任者につき、登記簿上なお取締役または監査役の登記を存続させておくべきものと解することは前叙の見地からして合理的理由があるというべきである。従って、取締役または監査役の任期満了または辞任による退任があっても、~に定める登記事項の変更を生じないと解するのが相当である。そして、以上のように解することは、利害関係人や一般公衆に対し取引上重要な事項を知らしめて不測の損害を防止することを目的とする商業登記制度の趣旨にもとるものではない。ところで、商業登記制度は登記事項についての法律関係当事者の利益のためにも存するものであることは所論のとおりであるが、~の権利義務関係は退任による登記の有無に関係なく存続するものであること、そのような地位にある者について登記公示する必要があること等を併せ考えれば、上告人らがいま直ちに辞任による登記を受けることができないとしても、現行商業登記制度上やむをえないところである。原判決の確定したところによれば、訴外株式会社Aにおいては、上告人らの同時の辞任により、取締役、監査役とも法律に定める員数を欠き、後任者の選任がされていない、というのであるから、~の適用または準用がある場合にあたり、従って、いまだ登記事項に変更がないと解し、本件登記申請を却下するのが相当であるとした原判決の判断は正当として首肯することができる。」

取締役会非設置会社である場合

当該会社が取締役会設置会社である場合には取締役の数は3人以上となりますが、取締役会非設置会社である場合、法律上、取締役の人数は1名で足ります。したがって、例えば、取締役会非設置会社で複数の取締役が存する場合、1名が退任しても、法律上、残された取締役で員数を充たすことになります。

定款で取締役の員数が定められており、当該取締役の退任により取締役の員数を欠くに至った場合であっても、登記官は申請書、添付書類、登記簿などを見ても、定款上取締役の員数を欠くことを判断することができませんので、裁判所において退任登記手続請求の勝訴判決を得て登記申請をすれば受理されるものと解されます。前記最高裁昭和43年12月24日判決は、「申請書、添付書類、登記簿等法律上許された資料のみによるかぎり、登記官は前記のような事項についても審査権を有するものと解される」としていますが、逆に、これらの資料により判断できない事項については審査権が及ばないと解されるのです。

取締役会設置会社であるときは、その旨を登記しなければなりませんので(会社法911条3項15号)、登記を見れば分かります。ただし、会社法施行前から株式会社であった会社については、同法の施行日(平成18年5月1日)に、取締役会設置会社である旨の登記がされたものとみなされますので(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律113条2項)、登記に記載がなくとも取締役会設置会社となる点に注意する必要があります。

最高裁昭和43年12月24日判決・民集22巻13号3334頁

「原判決によれば、本件登記申請により~の規定する法律または定款に定めた取締役、監査役の員数を欠くに至るかどうかは登記簿の記載に照らし容易に審査することができ、従って、本件においては登記事項に変更を生じていないものとして取り扱われる、というのであり、商業登記法24条その他同法の規定に徴すれば、申請書、添付書類、登記簿等法律上許された資料のみによるかぎり、登記官は前記のような事項についても審査権を有するものと解される。従って、本件においては、結局、登記事項に変更が生じておらず、前記24条10号に規定する登記すべき事項につき無効の原因があるときに準じ、本件登記申請を却下すべきが相当であるとして、本件却下処分を維持した原判決の判断には、登記官の権限についての所論のような違法は存しない。」

登記

登記手続をなすべき旨の判決は、民事執行法177条にいう意思表示をすべきことを債務者に命ずる判決ですから、その判決の確定をもって、当事者は登記申請の意思表示をしたものとみなされます。そして、申請を命ずる裁判によって、登記申請についての代理権の授与が強制される結果、原告は会社の代理人として登記を申請することができます。したがって、法律または定款に定める取締役の員数を欠かない限り、退任した取締役本人が、確定判決に基づいて、退任登記を申請することができます(昭和30年6月15日民事甲第1249号民事局長回答)。

尚、取締役の終任は変更登記であり(会社法915条1項)、請求の趣旨(判決主文)は「被告は、原告が令和○○年○○月○○日被告の取締役を辞任した(解任された、任期満了により退任した)旨の変更登記手続をせよ。」となります。