会社と会社が、継続的商品供給契約、独占販売契約、代理店契約等により継続的取引を行っている場合、一方当事者が、種々の事情により更新を拒否したり、あるいは中途解約したいと考えることがあります。これに対し、取引の継続を希望する側は継続的契約の解消は違法だと主張して、紛争になることもあります。
このような継続的契約を解消することが適法か否かについての考え方をご紹介します。
判断の枠組み
会社間における継続的供給契約を解約条項(一定の猶予期間をおいて当事者のどちらからでも解約できるとの条項)に基づき解約することについては、当然に解消できるのではなく、一般に、一定の制約があると解されています。
解約の可否についての判断の枠組みとしては、①信義則違反等の一般条項による制限を除いて自由にすることができるとする裁判例(最高裁平成10年12月18日判決・判例タイムズ992号98頁(花王事件)の原審・東京高裁平成9年7月31日判決・判例時報1624号55頁)と、②解約には「やむを得ない事由」が必要であるとする裁判例(最高裁平成10年12月18日判決・民集52巻9号1866頁(資生堂事件)の原審・東京高裁平成6年9月14日判決・判例時報1507号43頁)があります。
東京高裁平成9年7月31日判決・判例時報1624号55頁(花王事件)
花王が、特約店がカウンセリング販売を行わなかったため継続的契約を解除した事案です。判決は、次のように述べて契約解除を認め、最高裁もこの結論を維持しました。
「本件特約店契約は、化粧品の継続的供給契約であるが、この存続期間中に、当事者の一方からこれを解約することができるとする解約権の留保は、契約自由の原則から許容され、法的に効力を有することはいうまでもない。
本件契約書15条2項は、30日以上の解約予告期間を設けているだけで、解約事由を定めていないから、一方当事者は、諸般の事情に照らして、信義則に違反し、又は、権利の濫用に当たり、あるいは、強行法規違反等の理由で公序良俗に反するといったいわゆる一般条項による制約があることは格別、そうでない限り、契約期間の満了前であっても、右条項の解約権に基づき、解約事由を挙げることなく、本件特約店契約を解除することができると解されるのである。継続的供給契約であることなどを根拠にして、右の解約権の行使には、契約関係を継続し難いような不信行為の存在などやむを得ない事由を必要とするとの見解は、採用しない。」
東京高裁平成6年9月14日判決・判例時報1507号43頁(資生堂事件)
資生堂が、特約店が対面販売を行わなかったため継続的契約を解除した事案です。判決は、次のように述べて契約解除を認め、最高裁もこの結論を維持しました。
「本件特約店契約はいわゆる継続的供給契約と解されるところ、このような契約についても約定によって解除権を留保することができることはいうまでもない。
しかし、後記のように、本件特約店契約は、1年という期限の定めのある契約であるとはいえ、自動更新条項があり、通常、相当の期間にわたって存続することが予定されているうえ、現実にも契約期間がある程度長期に及ぶのが通例であると考えられること(控訴人との契約も28年間という長期間に達している。)、各小売店の側も、そのような長期間の継続的取引を前提に事業計画を立てていると考えられること、また、本件特約店契約は、それに付随して資生堂化粧品専用の販売コーナーの設置や、顧客管理のための台帳の作成、備え付けが義務付けられるなど、商品の供給を受ける側において、ある程度の資本投下と、取引態勢の整備が必要とされるものであり、短期間での取引打ち切りや、恣意的な契約の解消は、小売店の側に予期せぬ多大な損害を及ぼすおそれがあること、なお、前記解約条項に基づく解除が行われるのは極めて例外的な事態であること(略)などからすれば、30日間の解約予告期間を設けているとはいえ、前記のような約定解除権の行使が全く自由であるとは解しがたく、右解除権の行使には、取引関係を継続しがたいような不信行為の存在等やむを得ない事由が必要であると解するのが相当である。」
考慮要素
清水建成弁護士・相澤麻美弁護士「企業間における継続的契約の解消に関する裁判例と判断枠組み」判例タイムズ1406号29頁による裁判例の分析によりますと、一般条項による制約を課す裁判例では次の要素が考慮されているとされています。
- 被解消者が初期に多額の投資をして何年もかけて投下資本を回収していくことが予想されていること
- 被解消者が人的物的取引体制を整備したこと
- 被解消者が営業実績を積み重ねて固定客を獲得していること
- 取引のサイクルが契約期間より長い等により相当の期間にわたって存続することが予定されていたこと
- 自動更新が繰り返されていること
- 被解消者は契約解消後の製造・販売態勢等と再構築する必要があり、そのためにはその相当の期間を要すること
- 短期間で契約を解消されると小売販売業者側に予期せぬ損害を与えるおそれがあること
- 企業や事業の規模から、被解消者側のみに取引停止による重大な損害がでること
- 営業実績
- 設備投資が他の取引に転用可能か否か
- 解消者との取引の被解消者の事業全体における比率
- 被解消者が契約終了の可能性につき事前に警告したか否か
- 契約解消の申入れから契約解消までの期間
- 解消者の経営方針の変化の合理性
- 被解消者が契約違反等により、当事者間の信頼関係を傷つけたといえるか
- 被解消者の経営への影響
- 被解消者の信用不安
- 解消者側の財政事情の悪化、組織体制の変更などの大きな事情変更等の事情
契約解消が違法とされた場合の処理
契約解消が無効と判断されると以降も契約関係が継続しますが、被解消者による損害賠償請求が認められた事案もあります。
名古屋高裁昭和46年3月29日判決
「本件契約は、前記認定のとおり、被控訴人が自社の製品たる海苔、茶類につき控訴人を名古屋地区における一手販売権を有する指定販売店として期間の定めなく継続的に売り渡し供給する旨の契約であり、しかも、後記認定のとおり、控訴人は右製品を自社の主要商品として多額の出捐をしたうえ、販売設備を整え、広告、宣伝に力を入れ、販路の開拓拡張に努めたものである。かかる特定商品の一手販売供給契約にして、供給を受ける者において相当の金銭的出捐等をしたときには、期間の定めのないものといえども、供給をなす者において相当の予告期間を設けるか、または相当の損失補償をしない限り、供給を受ける者に著しい不信行為、販売成績の不良等の取引関係の継続を期待しがたい重大な事由(換言すれば已むをえない事由)が存するのでなければ、供給をなす者は一方的に解約をすることができないものと解すべきである。けだし、右の如き契約は、期間の定めがないときといえども、その性質上相当長期間に亘り、且つ、当事者双方の利益に資するために供給を受ける者が人的者的の投資をなすべきことが予期されるものであり、しかも右投資が現実になされるにおいては、契約の安定性が要請せられ、供給をなす者において自由に解約をすることのできる権利を抑制し、相当の制限を加うべきものであることは公平の原則ないし信義誠実の原則に照してこれを相当とするからである。」と判示して、供給者が相当の予告期間なしに一方的に契約を解約し取引を中止した場合につき、解約後1年分の収益に相当する損害等の賠償義務を認めました。
東京地裁平成22年7月30日判決・判例時報2118号45頁
外国のワイン会社が販売代理店との間の輸入販売代理店契約を解約した件において、「原告と被告は本件販売代理店契約に基づき18年という長期にわたり取引関係を継続してきており、その間に原告は日本における○○の売上げを大幅に伸ばしてきたこと等に照らせば、原告において将来にわたって被告の○○が継続的に供給されると信頼することは保護に値するものであるから、被告が本件販売代理店契約を解約するには、1年の予告期間を設けるか、その期間に相当する損失を補償すべき義務を負うものと解される。しかるに、被告が損失補償をしないまま予告期間を4か月とする本件解約をしたのは、本件販売代理店契約上の上記義務に違反するものであって、債務不履行に当たる。」と判示し、販売代理店の被った損害は1年から予告期間4か月を差し引いた8か月分のワインの売上げに係る総利益から販売直接費および販売管理費を控除した営業利益の喪失分と解するのが相当であるとして590万円の損害賠償義務を認めました。
(弁護士 井上元)