株券発行会社における株式譲渡関する最判令和6・4・19

 当初、株式会社は、株券を必ず発行しなければなりませんでしたが、平成16年の商法改正で株券不発行制度が新設され、その後、平成18年の会社法施行により、原則として株券は発行しなくてもよいものとなりました。
 さらに、平成21年には上場企業の株券が電子化されたため、上場企業はすべて株券不発行制度を利用するようになりました。上場会社では、株式の振替制度の施行日(平成21年1月5日)を効力発生日とする、株券を発行する旨の定款の定めを廃止する定款変更決議をしたものとみなされました(一斉移行)。
 これに対し、従前株券発行会社であった閉鎖型のタイプの会社が株券不発行会社になるためには、株券を発行する旨の定款を廃止する定款変更決議をする必要があります。
 未だ、この決議を行っておらず、かつ、株券を発効していない会社も多数存するものと思われますが、株式の譲渡は、当該株式に係る株券を交付しなければ、その効力を生じません(会社法128条1項)。
 とりわけ同族会社において、このような株式譲渡をめぐる争いが多々存するところ、最高裁令和6年4月19日判決(裁判所サイト)は、この問題につき、重要な判断を示しましたのでご紹介します。

最高裁令和6年4月19日判決

要旨

  1. 株券発行前にした株券発行会社の株式の譲渡は、譲渡当事者間においては、株券の交付がないことをもってその効力が否定されることはない
  2. 株券発行会社の株式の譲受人は、譲渡人の株券発行会社に対する株券発行請求権を代位行使することができる

事案の概要

⑴ Y1は、平成16年1月、α株式会社(α社)の設立に当たり、その株式200株(本件株式1)を引き受け、本件株式1の株主となった。α社は、公開会社でない株券発行会社である。
Y1は、平成24年4月、Aに対し、本件株式1を譲渡し、α社の取締役会は、上記の譲渡について承認した。
 また、Y2は、平成18年5月、α社の募集株式310株を引き受け、当該株式の株主となった。Y2は、同年8月頃、Bに対し、上記株式のうち240株(本件株式2)を譲渡し、α社の取締役会は、上記の譲渡について承認した。Bは、平成25年7月、Cに対し、本件株式2を譲渡し、α社の取締役会は、上記の譲渡について承認した。
⑵ α社は、設立以来、株券を発行したことはなかった。
 Aは、平成29年10月、本件株式1につき、債権者代位権に基づきY1のα社に対する株券発行請求権を行使するとして、α社に対し、株券の交付を自己に対してすることを求め、α社から、株券として、本件株券1の交付を受けた。また、Cは、同月、本件株式2につき、債権者代位権に基づきY2のα社に対する株券発行請求権を行使するとして、α社に対し、株券の交付を自己に対してすることを求め、α社から、株券として、本件株券2の交付を受けた。
⑶ Aは、令和2年3月、Xに対し、本件株式1を譲渡し、本件株券1を交付した。また、Cは、同年7月、Xに対し、本件株式2を譲渡し、本件株券2を交付した。α社の取締役会は、上記の譲渡についていずれも承認した。
⑷ Xは、Y1に対し、Xが本件株式1を有する株主であることの確認等を求め、また、Y2に対し、Xが本件株式2を有する株主であることの確認等を求めた。

原審

 原審は、要旨次のとおり判断し、Xは本件株式1及び2を無権利者から譲り受けたにすぎず、これらを善意取得する余地もないとして、Xの請求をいずれも棄却しました。
⑴ 株券の発行前にした株券発行会社の株式の譲渡は、会社法128条1項により、当該株式に係る株券を交付しなければ、譲渡当事者間においても、その効力を生じないから、本件株式1についてY1からAに、本件株式2についてY2からBに、それぞれ有効に譲渡されたということはできない。
⑵ また、株式会社が会社法216条所定の形式を具備した文書を株主に交付したときに初めて当該文書が株券としての効力を有することになると解すべきところ、本件株券1及び2は、株主であるYらに交付されたものでないから、株券としての効力を有せず、Xは本件株式1及び2に係る株券の交付を受けたということはできない。

最高裁

 最高裁は、次のように述べて、原審判決を破棄し、高裁に差し戻しました。
「⑴ 会社法は、株主はその有する株式を譲渡することができると規定するとともに(127条)、株式は意思表示のみによって譲渡することができることを原則とするところ、同法128条は、株券発行会社の株式の譲渡について特則を設け、同条2項は、株券の発行前にした譲渡につき、株券発行会社に対する関係に限ってその効力を否定している。そして、同条1項は、株券発行会社の株式の譲渡は、当該株式に係る株券を交付しなければ、その効力を生じないと規定しているところ、株券の発行前にした譲渡について、仮に同項が適用され、株券の交付がないことをもって、株券発行会社に対する関係のみならず、譲渡当事者間でもその効力を生じないと解すると、同項とは別に株券発行会社に対する関係に限って同条2項の規定を設けた意味が失われることとなる。また、株券の発行前にした譲渡につき、上記原則を修正して譲渡当事者間での効力まで否定すべき合理的必要性があるということもできない。以上によれば、同条1項は、株券の発行後にした譲渡に適用される規定であると解するのが相当であるというべきである。
 したがって、株券の発行前にした株券発行会社の株式の譲渡は、譲渡当事者間においては、当該株式に係る株券の交付がないことをもってその効力が否定されることはないと解するのが相当である。
 そうすると、本件株式1のY1からAへの譲渡は、本件株式1に係る株券の交付がないことをもって譲渡当事者間での効力が否定されることはなく、また、本件株式2のY2からBへの譲渡及び同人からCへの譲渡は、本件株式2に係る株券の交付がないことをもって譲渡当事者間での効力が否定されることはないというべきである。
⑵ また、株券発行会社の株式の譲受人は、株券の発行前に株式を譲り受けたとしても、当該株式に係る株券の交付を受けない限り、株券発行会社に対して株主として権利を行使することができないから(会社法128条2項)、当該株式を譲り受けた目的を実現するため、譲渡人に対して当該株式に係る株券の交付を請求することができると解される。そうすると、株券発行会社の株式の譲受人は、譲渡人に対する株券交付請求権を保全する必要があるときは、民法423条1項本文(平成29年法律第44号による改正前のもの)により、譲渡人の株券発行会社に対する株券発行請求権を代位行使することができると解するのが相当である。
 そして、株券発行会社の株式の譲受人は、譲渡人の株券発行会社に対する株券発行請求権を代位行使する場合、株券発行会社に対し、株券の交付を直接自己に対してすることを求めることができるというべきであり(大審院昭和9年(オ)第2498号同10年3月12日判決・民集14巻482頁、最高裁昭和28年(オ)第812号同29年9月24日第二小法廷判決・民集8巻9号1658頁参照)、株券発行会社が、これに応じて会社法216条所定の形式を具備した文書を直接譲受人に対して交付したときは、譲渡人に対して株券交付義務を履行したことになる。したがって、上記文書につき、株券発行会社に対する関係で株主である者に交付されていないことを理由に、株券としての効力を有しないと解することはできない。
 そうすると、前記事実関係の下では、本件株券1及び2につき、それぞれA及びCに交付されたことをもって、本件株式1及び2に係る株券としての効力を有しないということはできないから、上記両名から本件株券1及び2の交付を受けたXは、本件株式1及び2に係る株券の交付を受けたと認められる余地がある。」
(弁護士 井上元)